JAPAN WRITING INSTRUMENT MANUFACTURERS ASSOCIATION
△メニューに戻る
  第 15回 JWIMA会員研修会
日本筆記具工業会
2018.11.1
第 15回 JWIMA会員研修会開催
   11月1日東京・柳橋のベルモントホテルにて、第15回JWIMA会員研修会を開催しました。
   この研修会は、会員同士の情報共有と交流をはかるために毎年実施しており、講座も会員のニーズに合わせて各分野のスペシャリストに講師をお願いしています。
   今回は50名あまりが出席、それぞれの講義に熱心に耳を傾けていました。 
<以下、講演録(抜粋)>

研修会テーマと講師
【第一部】 IoTとAIを活用した中小製造業の経営戦略
講師:竹内幸次氏(中小企業診断士、(株)スプラム代表取締役)
  
【第二部】 破壊的イノベーターになる方法 ~実践編
講師:玉田俊平太 氏(関西学院大学 専門職大学院経営戦略研究科 教授)
 
【第一部】 IoTとAIを活用した中小製造業の経営戦略
講師:
中小企業診断士/㈱スプラム 
代表取締役社長 竹内幸次 氏
<講演録(抜粋)>
     IoTとAIを活用してどのようなことが出来るようになるか。
   いま①IoT、②ビッグデータ、➂AI、④ロボットによる第4次産業革命が起こっています。動力の獲得、革新、自動化に次ぐ新たな産業構造の変革の契機として、我が国経済へ大きな影響を与えるものと考えられます。
   IT投資を行う中小企業の方が売上高・売上高経常利益率も高く、売上高に関しては実に3倍の差が出ています。
   ビジネスチャンスとしても2018年11月から電通が「個人データ銀行」を開始しました。マネーを預けるための銀行から情報を預ける機関へと変化しています。スマートフォンのデータを個人データ銀行に預けると、様々なデータから統計を出し、企業が必要な情報を手にすることができます。その際使用した利息として、元データを提供した個人に利息が入ります。これにより企業は商品開発にもつながります。2020年以降は5Gにより従来の100倍のスピードでビッグデータを送れるようになる見通しです。あらゆるモノや情報がインターネットを通じて繋がり、それらが互いにリアルタイムで情報をやり取りしつつ(相互協調)、人の指示を逐一受けずに判断・機能し(自律化)、システム全体の効率を高めるとともに新たな製品・サービスを創出するのです(高度化)。
   例として、タイヤのミシュランは売上方法を変えました。客はセンサーの搭載されたタイヤを購入し、走行距離に応じて課金される。IoTは物の価値から使用価値へと稼ぎ方も変えるのです。
   AIは第3次ブーム(ディープラーニング)に入りました。特徴量を自ら設計し、概念を自ら生成でき(特徴表現学習)、画像認識の精度の向上をはじめとした技術革新によって「目を持った機械」が開発可能になりました。産業の生産性を向上させるには、分野を跨いで多様なサービス・製品を創出しIoTとAIを活用したものづくり・流通・の融合化、効率化が必要となります。それにより、2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点)と呼ばれAIが人間の知識を超え、サービス・製品が次々生み出させる社会を構築することができるようになります。
   では、人間は何をするのか。AIが自動的に仕事をし、人類は富を受け、BI(ベーシックインカム)が実現します。しかし、BIが行き過ぎると人間の働く喜びをも奪ってしまうのではないかと危惧します。
   物流への影響はというと、製造・物流・販売をデータで連結し在庫量に応じた自動受発注、画像認識システムとロボットを組み合わせることで人による作業の削減へと変化します。
   そして、近い将来人間の感情を認識したコミュニケーションを行うロボットが接客を行うようになるかもしれません。
 
(了)
 
【第二部】 破壊的イノベーターになる方法 ~実践編
講師:
玉田俊平太 氏
(関西学院大学 専門職大学院経営戦略研究科 教授)
<講演録(抜粋)>
   イノベーションと言う言葉は様々なところで使われていますが、時代と共に企業にとっての意義というか理解が変わってきています。100年前は「新結合」と訳され、60年前くらいに「技術革新」と言う言葉に変わりました。
   「イノベーション」という言葉の語源は、ラテン語のInnovare(インバーレ)で、何かを新しくすることの意味です。アイデアに新規性があって特許が取れたとしても、それが商業的に成功するとは限りません。アイデアは、社会で広く実用に供せられてはじめてイノベーションと呼べるようになります。すなわち、そこには経済的成功が暗然的に含まれているのです。このような意味から私はイノベーションは「創新普及」と訳すのが一番合っていると思います。

   歴史ある大企業には、長年にわたる技術の蓄積や、きちんとした製造能力、きめ細かい販売網やサービス網があり、既存顧客との信頼関係やブランド力もある。しかしながら、そんな企業が新しい会社に競争で簡単に負けてしまうことがあります。ビジネス誌などは、「経営判断を間違えたから…」と説明することが多いですが、一概にそうとは言えないケースがいくつもあります。持続的イノベーションの上手い優良企業が、特定の種類のイノベーション(破壊的イノベーション)にうまく対処できず打ち負かされてしまうのです。クリステンセン教授は、これをイノベーションのジレンマと名付けました。

   破壊的イノベーションを成功させるためには「無消費者をターゲットにする」という方法があります。無消費とは、何かの制約によって消費が妨げられている状況で、①専門的なスキルが必要、②欲しいが高くて買えない、③特定の場所や状況でしか使えない、④面倒もしくは時間がかかりすぎる、などがあれば「新市場型」の破壊的イノベーションを生み出すチャンスです。

   「無消費者」がいない場合、「満足過剰」の顧客を探しましょう。満足過剰の状況とは、ある性能がこれ以上向上してもそれが満足の向上につながらない状況のことです。車の最高速度や湯沸かしポットの機能、床屋のサービスなど、もうお腹いっぱいでお代わりもらっても満足度が向上しない顧客には、「必要十分」なシンプルで低価格のソリューションを提供することで「ローエンド型破壊」のイノベーションを起こすことができる。無印良品などがその例と言えます。

   破壊的なアイデアは多様な人材を集めた正しいブレーンストーミングから生まれます。ここには7つのルールがあります。1、価値判断はあとでする。2、ワイルドなアイデアを促す。3、他の人のアイデアに上乗せする。4、数を求める(意見をたくさん出す)。5、一度に一人が話す。6、主題に集中する。7、可視化する(意見をカードに書いて貼り出す)。
   次に、大量に出てきたアイデアの中から、有望なものを選び出します。出てきた膨大な数のアイデアをすべてを商品化するのはリソースの面から不可能ですし賢明ではありません。アイデアを選ぶにあたっては、似たアイデア同士を「アイデア・レジュメ」にまとめ、チェックリストに照らし合わせてふるいにかけます。そしてスコアリングして「破壊度」を計測します。そして破壊度と自社での実現可能性、見込まれる長期的な利益、その判断に対する確信度を一枚の図にマッピングして評価するのです。
   この時気を付けなければいけないのは、今までの組織の能力を使わないことです。今まで組織の能力を生み出す源泉となっていた「プロセス」や「価値判断」も、組織を取り巻く状況が変わると組織の無能力(!)の決定的な要因となるからです。

   チェックリストはこうなります。初年度のターゲットは?マス市場でも大規模市場でもない「ニッチ市場」が10点。顧客はそのことをどう片づけたいか?うまくでも安くでもなく「もっと容易に」が10点。顧客は製品やサービスをどう考えているか?完璧でも優秀でもなく「必要にして十分」が10点。価格は?高価格でも中程度でもなく「低価格」が10点。他社にとってこのビジネスモデルは?従来通りでも多少の変更でもない「根本的に異なる」が10点。市場へのチャネルは?すべて既存でも半分以上新規でもなく「まったく新しい」が10点。競合他社はこの戦略を?すぐに対応したいでも注目しているでもなく「気にしていない」が10点。初年度の収益は?多額でも平均的でもなく「少額」が10点。この1年間の投資は?平均以上でも平均的でもなく「平均以下」が10点。これで、90点に近いものが破壊的なアイデアということになります。

   では次に、アイデアの破壊度と自社の能力・欲求による実現性の評価をしてみましょう。アイデアの破壊度が低くて、アイデアを実現させる能力と欲求も低いものは長期的な利益の可能性が大きくても却下です。確信度や長期的な利益の可能性が低くても、アイデアの破壊度とアイデアを実現させる能力と欲求が高いものは行すべきです。その間のものは要検討として保留。特にアイデアの破壊度と判断に対する確信度が高いものは、たとえ能力や欲求、利益の可能性が低くても温存しておきましょう。環境が変わるかもしれません。

   次に、どこでその事業を行うかということですが、ソニーでは5人以下のグループで新規事業を立ち上げられる制度があります(Seed(種子)アクセラレーション(加速度)プログラム)。まさに破壊的事業を生み出す取り組みです。このように客観的な組織を自社内に作ることができればそれがベストですが、なかなかそうもいきません。
   自社内で行うことが難しい場合は、他の破壊的企業を買収することも選択肢となります。新しい酒は新しい革袋に任せるということわざがあります。ただ、その場合は次のことをしっかり肝に銘じなければなりません。1、資源を買うのかビジネスモデルを買明確にする。2、買収先企業の価値を正確に見極める。3、妥当な条件で買収契約結ぶ。4、買収した企業を適切にマネージする。

   今後、有望な市場には破壊的なイノベーションが起こるでしょう。いくつもの市場をいっぺんに飲み込み一つの市場とするイノベーターが出現するかもしれません。業界の枠は取り払われ、どんどん異業種からの参入があるでしょう。私たちは何ができるでしょうか。多くの人や企業は、おそらく何もできません。
(了)

| メニューに戻る |
© 2002 日本筆記具工業会,All right reserved.